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原子力の過去・現在・未来―原子力の復権はあるか (シリーズ21世紀のエネルギー 9)

価格: ¥2,100
カテゴリ: 単行本(ソフトカバー)
ブランド: コロナ社
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原子力発電についての専門家の実感を知ることができます。 ★★★☆☆
 原子力発電についての専門家の実感を知りたいと思い、比較的発行年が新しく、コンパクトそうなので読んでみました。

 本書本文中では、核エネルギーの理論と技術の基礎部分に関して技術的・事実的側面を中心に正確かつコンパクトに整理されながらも、ところどころに交えられたコラムでは、主に原子力研究・実用化段階における問題点や課題、将来展望に対し、事実を直視した上で、純粋な科学技術論からの結論のみならず「インフラ事業」として推進するにあたっての判断要素として、一般社会の反応や、経済合理性等、環境への負荷、他エネルギー開発環境との兼ね合い等の要素も加味していかなければならない、ということを踏まえた上で、

【大きな流れ】
■「潜在的に見込まれるエネルギー規模の大きさから大きな期待のもと、国家プロジェクトとして庇護、大規模投資されてきたため、関係者の間に原子力を選ばれたものとして特別視する独善的な傾向がある。」
■「原子力開発環境の変化への対応が不十分なこともその傾向を示唆している。」
■「開発当初の期待の大きさに比べ、エネルギー源としての実用性、容量の面で当初の見込みをはるかに下回る成果しか残していない。」
■「いままでのところ、人類の歴史に及ぼした影響という点では、大量破壊兵器としての側面の方がはるかに上回ってしまっていると言わざるを得ない。」
■「原子力が発見された当初は、すべての問題が解決されるとおもわれていたが、環境の変化、リスク等、複雑で重要なリスクが認識されはじめている。」
■「原子力を推進する側が、実用化段階に入った原子力が直面する社会的課題に適切に対処してこなかったことも、議論が平行線をたどっている原因となっている。」
■「技術が切り開いた莫大な供給力に幻惑されてはならない。現在のわれわれの技術管理能力には限界があることを謙虚に認め、有限な地球における原子力のあり方を考える必要がある。」

等を原子力開発・推進を困難にしている主要因と問題点として認識した上で

【個別論点】
☆プルトニウムの経済性評価について
■最近核燃料サイクルの優位性の根拠としてよく言及されるプルトニウム利用、経済性評価については、燃料加工などフロントエンドにおけるコストパフォーマンスが飛躍的に改善されているのに対し、バックエンドのコストパフォーマンスは再処理コストが当初見込みから高騰していることから、現在のところ、プルトニウム利用の経済性は無く、逆有償で取引される物質=廃棄物として認識される。
■「わが国では、プルトニウムを純国産エネルギーとみて、もっぱらエネルギーセキュリティ上のメリットが強調されていますが、国際的には説得力の乏しい議論だといわざるを得ません。プルトニウム利用、特に増殖炉での利用によってウラン資源制約を克服し、長期的なエネルギーの安定供給を実現することは重要ですが、これは世界規模でのエネルギー供給の持続可能性に関するもので、一国のエネルギーセキュリティ上のメリットと考えるのは適切とは思えません。一国が突出してプルトニウム利用を推進することは、核拡散への懸念から国際的な干渉を受けやすく、当該国のエネルギーセキュリティにはむしろマイナスの効果を持つと考えるべきでしょう。」
とコメントしています。

これに対しては、逆に「プルトニウム悪玉説」が過度な強調による、他のリスクに対する目くらまし効果などもあり、つまるところ、「リスクとメリットの両方を正しく認識するよう気をつける」ということなのですが。
原子力開発においては、この基本姿勢がおろそかにされ、実際に、隠ぺい、ごまかしの挙句、事故や無駄な投資が続けられてきた歴史を振り返れば、何度言っても、言いすぎることはない、と言えるでしょう。

☆トリウム利用に関して
■232トリウム→233ウランサイクルの有望性については、238ウラン→239プルトニウムサイクルに対し、熱中性子炉での利用が可能な事等、出力エネルギー規模の潜在力の面は認めるものの、再処理技術、燃料加工等、フロントエンド、バックエンド双方における、開発要素・課題の存在を直視し、「経済的負担とメリットを慎重に比較評価することが必要」とした上で、「長期的な視点・構想からは、トリウム利用を考慮するべき。」と結論づけている。

ここで、留意すべきは「長期的な視点からは」との但し書きがつけられている点です。

☆核融合について
■「資源的にも環境的にも問題であり、工学的に検討すれば、核分裂と比較して核融合が資源、環境の点で決定的に有利とはいえなくなる。まして、経済性は未知であり、核融合への期待もほどほどにしたほうが賢明である。」
と酷評。
■「確かに核融合にはいくつかの独自性が認められるが、その方向での開発の道のりははるかに遠いものである。」
■「現状のように、核融合の利用法としての、電源としての、経済性、環境特性に決定的に有利な点が見つかっておらず、他の利用法にも独自のものが絞り込まれていない段階では、特定の大きなプロジェクトに資金を集中投入するより、複数の可能性を平衡して追及すべき。」
■「「ITERプロジェクト」は、当初予定の規模を半減したが、それでも、まったくエネルギーを発生しない一研究開発施設への投資としては、原子力研究開発の中でもけた違いに大きいもの。・・・・・重要性は理解できる。しかし、ITERの延長上に何があるのか? 」
■「「地上の太陽」の実現というロマンだけで核融合の開発が許された時代は終わっていると思う。」
■「大型の装置がなければ研究が進まないというのでは、開発は袋小路に追いやられる可能性が高い。」

 等、各技術分野、課題にクギを刺した上で、原子力全体に対する結論としては、「最終的には、エネルギー資源の有限性を克服し、人類に地球環境の制約から逃れることすら可能にする潜在力をもっている。」と希望を語り締めくくっています。

 専門家の意見のなかから、本書の様な反省的・客観的視点からの意見が発せられるということに対しては、少し驚きましが、これについては、
・世論や政治への配慮等を踏まえたうえでの、反対派、一般社会への社交辞令としての意味合い
・何らかの理由で、原子力開発への参入障壁を設ける意図で一般に公開される情報上には何らかのバイアスをかける必要性があった可能性
も考えれるかも知れません。
 この部分は、読者それぞれの読み方、受け取り方にもよると思いますので、是非、一読頂ければと思います。

最先端の研究現場から出た実感、本音と、一般に事実を提示したいという使命感を少なからず感じました。