着物。世界でも有数の美しい民族衣装であり、日本の染織工芸の粋を集めているが、大多数の日本人は敬遠する。敬遠される理由はいろいろ。価格、脱ぎ着や着こなしの際の面倒、洗濯のしにくさ、生活様式の変化によって簡単な手当も家庭で出来ないこと、気楽な着物が身近にないことなどだ。そうした中で、着物は「普段着」ではなく「晴れ着」「特殊なお洒落着」となり、価格はいよいよ上がり、消費者はそっぽを向く。売れなくなった着物は呉服屋だけでなく、周辺の生業を否応なしに潰し、培われてきたさまざまな手業や技術は今や絶えようとしている。
危機的な現在、着物の周辺を十数年にわたって聞き書きにした労作が本書だ。「労働着としての着物」「冬の労働としての糸紡ぎ、機織」「日常着としての着