なんで金壷食堂じゃなくて花笠食堂なんですか?
★★★☆☆
文章のあちこちに那覇の中心街で知っている地名や店名や病院が出てきて、にやりと笑う。さすがに漫画家出身だけのことはある。この人の観察力にまず感心しました。一見深刻なようでいて、スケッチに淡彩で色づけしたようなあっさりした人間模様ですね。ただし、期待していたような沖縄の凄みとか生命力は後半しだいに消えていきます。しりすぼみというのが正直な読後感。それが良いという人もいるでしょうが、私にはいささかものたらなかった。ちなみに凄みが強すぎたのが、花村まん月の{沖縄をうつ}ですし、はじめから凄みも何も無いすかすかの作品が吉本ばななの{なんくるないさあ}でしょう。沖縄って誰が書いてもピタリとはまるのが難しい。そのくらい多様性に満ちている「チャンブルの世界」なんですね。
さすらう人々がいしかわさんのテーマなんだな
★★★★☆
複数の登場人物が、物語の舞台である「沖縄 那覇」ですれ違っていきます。
どの登場人物も背負っている背景は違うものの、「那覇に逃げてきた」ような側面があり、
だからといって那覇が安住の地だと思っているわけではない。
帯にある、「ここではない何処か」ということば通り、
「何処かを探して、さまよって、今は那覇にいる人々の物語」です。
それぞれが短編なので読みやすく、那覇の空気が再現されています。
那覇に住んでみたいと思う人は、読んだらいいんじゃないかな?
ちょっとだけ、夢が破れるかもしれませんが。
読んでいて、頭の中に蘇ったのが、いしかわじゅんさんが昔、書かれていた漫画「東京物語」でした。
舞台はバブルの頃の東京でしたが、あの時の登場人物(特に男性陣)が、仕事がうまくいかなくて、
那覇にやって来た・・・としても不思議はない・・・と思ってしまいました。
いしかわさんが描く人は、さすらっている人ばかりだなと思ったのです。
東京物語の登場人物も、バブルな東京でさまよっていたんじゃないか・・・
そんなことを思いました。
泣いてしまった
★★★★★
ここにはテレビや新聞では決して知ることの出来ない生身の沖縄がある。同じ言葉を話すのだけれど、どうしてもたどり着けない何か。むしろ最初はそこに惹かれて真新しい人生を送ろう等と勝手な夢を見て移り住むのだけれど、あんなにやさしく大きな心の人々と、どこまでも高い空と遠い海に、流れ者はいつしか孤独を抱くようになり、何時しか誰とも知り合えないまま東京に帰ってゆく。思い出すのは58号線のあの日差しとハイビスカスの鮮やかさだけで、そこには何故か島の人がいない。そんなやるせない切なさを思い出させてくれる初めての本。沖縄を知るに一番大切なことがちりばめられた珠玉の名作だ。基地をいくら論じても海とどれだけ戯れても決してわからない、本当の沖縄がここにはある。