布への祈り
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月刊「なごみ」(淡交社/2008年1月〜12月号)に連載された「きものの記憶」に書き下ろし原稿を加えたきものまわりのエッセイ。
「きりょうときものの自慢は、するものじゃない」と澤地さんのお母様は語られたといいます。そのこころくばりが根底にある澤地さんの生き方が、この本に載せられたきものたちから伝わってきます。
日本最高峰、すなわち世界最高峰とも言いうる至宝の手技、決してでしゃばらないけれども、凛として手強い染織品の数々に目も心も奪われました。澤地さんの手元に集まった染織品たちは、どこか必然を持ち彼女のところに届いたようにも思えました。
さらりと語られる沖縄の戦後、焼け野原を一から耕し血のにじむような労苦の果てに産み出された芭蕉布のたたずまいなど、「琉球布紀行」から一貫した作り手への暖かなまなざしに、私は胸を打たれ、ひととき旅のお供をさせていただいた気持ちにもなりました。