面白いけど、なにかイマイチ
★☆☆☆☆
著者の自叙伝。三井物産の管理職の行動力学を経験に照らし合わせて上手く描いているように思う。ただ、書き手のテクニックというか、物書きの成熟度というか、いわゆる小説としてのクオリティーにはそれほど不満はないが、胸を鷲づかみにするような凄味を感じないのが残念。
本書の山場である企業舎弟の社長が登場したところで過去人殺しに関わったような描写をしているが、その後は内部の昇進だの失脚だの云々で結局ヤクザはストーリーの中心線から外れて終わってしまう。でも、この「粉飾決算」は大手商社の系列不良債権にヤクザがいた、ということをテーマにしているのだから、もっと丁寧にヤクザ社会の仕組みを取材・分析し、バブル崩壊後のヤクザ社会の構造的変化や企業舎弟として生きる人間の行動心理を絡めて読者を愉しませてほしかった。
不良債権処理物語
★★★☆☆
業績不振の商社員が主人公。関連会社がリゾートホテルを暴力団の企業舎弟に賃貸し、賃料の不払いが続いて不良債権化してしまう。そこで主人公が登場し、ホテルを取り戻すために四苦八苦するというストーリー。全体としてゆっくりとしたテンポで、ミステリーの色彩は薄い。話が面白くなるのは中盤からで、主人公の妻が蕎麦屋の開業を真剣に考え始めたり、息子がリクルートスーツに身を固めて会社訪問を始めたりするのと重なる。本筋では、主人公が様々な妨害工作に対して反撃に転じる辺りからが面白い。
タイトルの粉飾決算に関する記述が殆どない。不良債権を正しく親会社の商社に報告していなかったことが粉飾という意味なのだろう。
著者の「架空取引」よりは多少落ちる。
ストーリー展開に難あり。
★☆☆☆☆
心理描写、背景描写が多く、ストーリー展開が緩慢なので、
スピーディーな展開を好む向きにはつらい文体でした。
こんな不良債権回収をしてみたい。
★★★★★
高任氏の十八番、ビジネス法務小説。舞台は著者の前職でもある商社。商社の元法務部員が、子会社を管理する関連事業部へ異動、リストラする会社のリストアップを命ぜられる。そして、不動産賃貸事業の粉飾決算が浮かび上がり、やくざ相手の不良債権回収に発展していく。無責任な当の子会社社長、事なかれ主義の上司や法務部、手ごわいやくざの親分。主人公は、四面楚歌の中で毅然として法的措置を講じていく。「調停」や「処分禁止の仮処分」など法律実務がよく分かる。不良債権回収の手引きにもなる優れた小説だ。余談だが、文庫本になる前は「密命」という題名だった。改題されたのは、ネタばらしになるからだろうか?
ハードボイルドおやじ商社マンの戦い
★★★☆☆
経営危機に瀕する商社の内部で、暴力団に貸してしまったリゾートホテルを巡って複雑な人間模様が展開されていく。巨大組織の中で、一歯車として保身のためには何でもするといった役回りの人物達が登場するが、少しモデル化しすぎている印象はある。
主人公は、もさもさっとしているが、正義感とまっとうなバランス感を持ちつづけており、醒めたセリフにその都度唸りながら、いつの間にか興味を引かれていく感じがした。
タイトルからは、複雑な決算操作に関連した会計的トリックストーリーかなと思っていたが、人間の欲がドロドロに絡まりあった話であった。