書く作業も料理と共通するのかも…ふと、そう感じました
★★★★☆
先日書店で何気なく手に取った『昭和天皇のお食事』に関連したのをレビューで見つけ、図書館で
借りてきました。
当時の天皇・皇后の慎ましやかでほほえましいエピソードに触れ、昭和を懐かしんでいます。
読者としては、大膳に勤めた人ならではの皇室エピソードをもっと教えてほしかったなと思うのですが、
ある考えがハッと浮かびました。
これでもかこれでもかと書かれるよりも、ああもう少し読みたかったなというところで終わるほうが、
読み手は楽なのかもしれません。
これは腹八分目に通じることで、満腹になってしまうと(満腹感の味わえるほうが良いと言う方もいます
から、それぞれなのですが)満ち足りた一方で何かしら残念な気分にもなるというもの。
ましてや食べすぎは「味わう」ことを忘れているようにも思います。
本も、そうなのかもしれません。
もう少し書いてもいいというところで筆を置くのも魅力的だなと、エッセイを書く私は気づかされました。
日本人必読の一冊か
★★★★★
職人さんの言葉らしく、素朴ながらもユーモラスな文章で大変読みやすい本でした。
この本を読んで、もっとも痛感したのは、日本人は天皇陛下のことをかなり誤解しているのだな、ということでした。
大膳課の予算では松茸などの高級食材を買うことはおろか、いつでも算盤を弾いて頭を悩ませていたとか、他にも陛下がお使いになったお箸を菜箸として再利用するなど、一切無駄をしていないとか、驚くような話が次々と披露されます。
天皇制に反対なさる方は、さも陛下が贅沢をなさっておられるかのように言うものですが、それはまったくの見当違いだ、としか言いようもありませんでした。
たしかに、軍人や政治家といった、それなりの地位にあった方のそれに比べ、この本の内容はいくら言っても日常生活の話ですし、何分にも職人さんのお話ですから、宮廷生活そのものを知りたい方には少々簡単すぎるように思えるかも知れませんし、ややもすれば言葉足らずで稚拙な印象を受けてしまうかも知れません。
しかし、この本は、そこが大変意義深いように思われます。
人が帝王とされる方にお会いする、これが一体どんな出来事なのか。
聖上という言葉が何を意味するものであるか。
飾らない一介の料理人の飾らない言葉から、それがひしひしと伝わって来るのです。
大変素晴らしい一冊であると思います。
このような本を記して下さった谷部さん、また出版して下さった河出書房新社(文庫化したのは文春ですが)に感謝する次第です。
堅苦しくない
★★★☆☆
2001年に河出書房新社から出た単行本の文庫化。
著者は昭和天皇の料理係を26年間にわたってつとめたという人物。宮内庁管理部大膳課というところで和食を担当していたのだという。17才から勤めはじめ、昭和天皇の死とともに辞職している。昭和天皇との個人的な交わり、天皇に寄せる崇敬なども描き込まれており、皇室ファンの人には面白いのではないか。
私は皇室の食事について知りたかったので読んでみた。その点ではやや期待はずれ。もう少し体系的でデータの豊富なものが欲しかったのだが、本書では駄目であった。昭和天皇の好物、意外に質素なメニューなどを知ることが出来たのは面白いけれど。
昭和天皇の一面を知れる
★★★★☆
宮内庁大膳課で和食を担当されていた谷部金次郎氏の回想録といった感じの1冊。丁寧ながらもやわらかな文章で読みやすいです。
昭和天皇・皇后両陛下とのエピソードや、好まれた料理など、報道などではなかなか知る事のできない一面が描かれていて非常に面白かったです。
ある宮中の会でてんぷらを担当した谷部氏が、初めて昭和天皇から声をかけられ、失敗なんて考えられないほど揚げなれていたはずのてんぷらを緊張のあまり失敗してしまったというエピソードがとても印象に残りました。
氏は、その時感じた陛下のえもいわれぬ威厳に、生涯このおひとりにお仕えしようと誓ったそうです。
この話を読んで、ああ本当にこういう事ってあるんだなと、ある意味感動しました。
日本の戦国時代や三国志などの小説で、やはり英雄と呼ばれる人の人柄や風格に魅せられるというエピソードがありますが、こういうのってなんかいいですよねぇ。すごく好きです。
簡潔にまとめられた文章
★★★★☆
皇居の台所を預かる宮内庁大膳課の日本料理担当だった著者。大膳課の仕組や天皇家独特の料理、料理人たちの生活などが、簡潔な文章でまとめられていて読みやすい。度々登場する秋山徳蔵に関しての知識を、『天皇の料理番』などであらかじめ知っていると、本書の内容を一層理解出来るだろう。
表題にある鰻茶漬は、昭和天皇がお好きだった料理の一つ。読んでいて、思わず食べてみたくなった。あわせて、昭和天皇の和食の好みも知ることが出来た。