前作とは違う、じわりとした衝撃
★★★★☆
前作「ラブリー・ボーン」を楽しんだので、興味本位で手に取りました。
中年女性が起こしてしまった母親殺し。それから彼女が辿る24時間。その中で思い出されていく彼女と母親との関係。彼女の胸にだけおさめられていた父親の秘密。はたして彼女は正気なのか、それともそうではないのか。
興味本位の気持ちは粉々に砕かれました。言葉にはならない、あえてしようとはしない、振り切れてしまった人間の心理、行動がそこに描かれていました。こういうことは、普段の会話にも、テレビや新聞の話題にも、まして物語の中にも出てこなかった。描かれていたとしても、それは表層の事件性を追ったものだけで、ほんとうにその場に置かれた人物がどんなことを考えるのか、それは描かれないものだと思う(犯人としての特殊性とかにフォーカスがあてられてしまいますからね)。しかし、この作品は違う。あえて、犯人を主人公にして、その奥に潜む心の影に、少しずつ、ほんとうに少しずつ光を当て浮かび上がらせていく。衝撃はじわりと訪れます。気をつけて。
こういった問題を特殊性ではなく、実に普通の人間が犯してしまうという側面から人間性をとらえた良作です。