個人的には、最初の「メディア論」にいちばん熱中しました。
グールドの言動を丹念に追いつつも、すっきり整理してくれてい
る印象です。冒頭の「演奏会活動停止発言」や、
「拍手禁止コンサート」の“実況中継”が、特にそうで、
今までどの本にも書かれていないエピソードがおもしろかったです。
マクルーハンが出てくるところは(正直マクルーハンは
名前しか知らないので)チト難しかったけど、グールドの考えや
気持ちがわかるような、切ないような、なんとも言えない気持ちに
なりました。
「演奏論」は、ゴールドベルク変奏曲(ゴルトベルク変奏曲って書くべき?)
を中心にまとめられていて、グールドがなぜこの曲とともに
語られるのかがわかった気がします。先輩ピアニスト
ロザリン・テューレックのグールドに対するコメントが笑えました。
最後の「アイデンティティ論」は、カナダ、カナダ人論(?へえーそんなのが
あるの?)で、今まで読んだことのない新鮮な話題でした。
2章までが内へ内へ入り込む感じだったのが、
ここへきて、パッと広がっていく感覚がありました。
「米国人の言いなりにならないグールド」っていうのがイイです。
全体的に、グールドを語るときに良く使われる「孤独」とか
「エクスタシー」といった言葉を使わないで論じる姿勢には
妙に感心。「孤高の人」であったかどうかは問題
にしないし、それでもグールドは論じられるのだという態度が
貫かれてるみたいです(でも、ちょっと使ってもいいじゃん!みたいな
気もしましたが)。
それからこの第3章、ちょっとしたドンデンガエシみたいな
終わり方をしていて、この章の冒頭だけでなく、第1章の冒頭にも
循環するところがチャーミングですし、また切なくなりました。
付録のグールドの忘れられたエッセイ「親友の言葉」もおもしろく、
改めてグールドの魅力に引きつけられました。