とは言え、面白かったのはたしか。無茶な設定に目をつぶれば、十分に楽しめるエンターテイメントになっている。
それはそもそも「エンダーのゲーム」に2つの大きなテーマが両立していたことに由来するのだろう。
つまり、1)バトルスクールそのもの・エンダーの成長と2)異知的生命体と人類であり、前シリーズが2)を掘り下げたものに対して、こちらは1)の延長線である。
前作「シャドウ・オブ・エンダー」が、「ゲーム」との巧みなザッピングを駆使してビーンを魅力的に描いたのに比べると、正直やや退屈な展開である。
それでも、「自分の弱点が故に愛しい者たちを失うこと」に苦しみ抗う少年の姿には胸を打たれ、物足りないと感じながらも一気に読んでしまった。
一方、エンダーの兄、ピーターも「ゲーム」の時のような「危険な雰囲気」は影を潜め、むしろ「自分よりも劣っている(と本人が考えている)大人たち」に、「ロック」という仮面を脱ぎ捨てて正面から向き合うことによる不安と葛藤を中心に描いており好感を得た。といってもビーンと同様に、「何でこいつがあのエンダーの兄なんだ?!」的なややピーターには理不尽な(?)苛立ちを感じるが(笑)。
やはりカードは子供の心を描かせると一流なのだなと感服。
SF要素は「死者の~」系の方が深く魅力的だが、「お話」としては私はこちらのシリーズをお勧めしたい。
ビーンの「秘密」はやや蛇足だが・・・。
どうやらまだ続編があるらしいことですし(「Shadow's of Puppets」;未約。待てそうに無いので原著を買ってしまうか。)。
吉田秋生さんの『YASHA』の遺伝子操作された人類と異なる種である悲しさをテーマにし、人間とは何かを逆に問うた作品を思い出した。また権力を操れるという自覚を持った人間が、どういう風に世界を考えるか、という点ではおもしろかった。大抵の小説は、今現在の世界や法律ルールを当たり前のものとしてかかれるが、実際に世界戦略を検討するブレインたちは、血も涙もなくそういったルールを無視するだろうからだ。そういう意味では、三国志のような小説という作者の意図は、結構面白かった。
マイナス点
作者もあとがきで告白しているが、ビーンを描いた一連のシリーズは、三国志のような歴史の大きな流れと個人の思いを両立させたいという構想のもとに作られている。子供や人間を描く温かく鋭い視点はさすがといえる。しかし惜しいかな、いざ「世界情勢」「歴史」という全体の視点となると、読んでいる立場としては、視点が古すぎる。
他のレビューの方も書いているが、現代社会から約100年後で、ヘゲモンという地球統一政府が曲がりなりにも、対異星人を契機に成立した地球人類社会にしては、あまりに政治勢力が現在(というかワルシャワ機構と西側の対立、アジアの政治勢力の変化なし)と進歩がない。視点が古すぎて、少しげんなりしてしまう。これからの社会は、21世紀前半のアメリカ帝国による事実上の世界支配と、中国を中心とする緩やかなアジア共同体に対米国ヨーロッパ共同体、イスラム社会の連帯、そしてなによるもグローバリズム抵抗するテロリズムの世界的嵐等々が前提にされなければ、読んでてわらちゃうもん。