ゆったり
★★★★☆
一読して、細かいなあ、と感じます。
例えば。
73ページには今回の舞台となる醤油酢問屋の蔵の様子が描かれています。これが実に写実的なスケッチです。でまかせではないでしょう。おそらくはどこかの古い蔵でも見学してのスケッチではないか、と思います。
あるいはまた。
82ページには、空き樽の売値、醤油問屋の数、冥加金の額など、細かな数字がならべられています。これもたぶんでまかせではなく、調べたものではないか、という気がします。(でまかせであっても、これだけリアリティがあればいいです。)
そのほかにも物の名称などがさらりさらりと出てきます。
例えば、108ページには「灰吹きに吸殻を落とし」という表現が出てきます。
キセルの灰を落とところは「灰吹き」という名称なのか、と感心したりします。
まあ、全編これ時代考証のかたまり、といった感じです。
ただ、その分、ストーリーの流れがひどくゆったりで、ここで読者が分かれるかもしれません。
時代小説をゆったりと味わえていい、という読者と、じれったくて読んでいられない、という読者にです。
クライマックスの水賊との戦いは迫力がありますが、欲をいえば、ちゃんばらシーンをもっとたくさん入れてほしかったです。