あだ名が「種馬」だった子供時代、アナウンサーを目指して上京したはずが、キャバレーで売れっ子の司会として活躍。その後、森進一や小林幸子の専属司会を務めるなど、彼の数奇な人生が漫談の口調そのままに明かされていく。その合間に「綾小路きみまろ爆笑ライブ」として、彼のステージでの語りが4編収録されている。
活字であるにもかかわらず、彼独特の口調や間が非常によく再現されており、これによって彼の話芸が非常に練り込まれ、完成されたものであることが改めて認識させられる。軽いオチを畳みかけたかと思えば、伏線を引いていってからから大きく落とす。その絶妙のさじ加減は、テレビで主流となっているアドリブ芸とは一線を画している。
中高年をターゲットにしているという点では、毒蝮三太夫など同じ土俵にスターはいるが、毒蝮が1対1の関係の中で、相手を罵倒することによって愛情を示すのに対し、綾小路は中高年のプロトタイプをしゃれのめすことで、「どうせ皆年をとればこんなものなのだから、無理せず楽しく生きましょう」と言外に訴えかける。それは単に性格の違いだけではなく、彼の話芸へのこだわりがそうさせているように思えてならない。
ファン必携であるのは当然として、未来の中高年にも訴えかけるところのある本に仕上がっている。(大脇太一)