起源論的起源論
★★★★☆
”人間不平等起源論”、”社会契約論”など、その後の民主主義にすら多大な影響を与えたルソー。彼の偉大な思想に敬意を払い、私たちは彼の崇高性、孤高性を疑いもしない。しかし、真の思想は崇高な、精神的生活のみから訪れるものであろうか?この本を読むことによって、彼は崇高でもなければ道徳的でもなく、放浪癖と盗み癖があり、激情のみを原動力とする一人の愚かな人間であることが明らかになる。そして、彼の作品は、彼の犯してきた数々の過ちの鎮魂歌(レクイエム)であることがわかる。子供の教育論を書いた”エミール”は彼が生まれるたびに捨てた子供たちへ、彼のついた嘘のために職を追われた娘へは”告白”を。彼は、彼を焼き尽くす後悔の念とともに一冊一冊を生み出した。もはや、彼は机上の英雄ではありえない。そのような後悔や痛みを知る彼の思想の起源を知って、読後、彼の言葉はさらに重きを増すのではないだろうか。