ばらすぞゲバラ
★★★☆☆
ゲバラについて知りたい一番の事柄は、
閣僚の地位を捨ててゲリラに戻った理由である。
アメリカに敵視されるキューバの困難を見捨ててまでなぜ、という疑問への答である。
P234に記述されているような、革命勢力に加わる決意、というような紋切り型ではなく、
ゲバラの迷いやおそれをも含んだ、判断に至る経緯、全体像が知りたい。
しかし、それが描かれていない。
次に知りたいのは、
ボリビアにおける戦死のキューバへの情報の伝わり方、
カストロをはじめとするキューバ人の受け止め方である。
しかしその記述もP287からP288に、
知らせがきた‥肉体的消滅‥悲しみに打ちひしがれ、とあるだけである。
この本を読むことで解明できる、ゲバラの新たなる人間像はほとんどない。
筆者との出会いに関する、ちょっとした挿話くらいのものだろうか。
それもやむをえない。
筆者の書きたかったのは実は、
表題にあるようなゲバラ自体ではなく、自分自身でしかないのだ。
過去の革命における英雄的行為、
現在のカストロとの親密な関係、
4人の子供たち、
書きたいのはそれだけなのだ。
つまり「正しいものとしての自己の人生」である。
ヒロインは筆者であり、
ゲバラですらその引き立て役にすぎない。
しかし筆者は、それほど興味を引く「人間」ではない、
というところにこの本の欠点がある。
彼女は、ゲバラの革命の過程に偶然に遭遇したただの「女」であるにすぎない。
読み進むうちに、そのことが明らかになるばかりである。
ただ、訳者あとがきが、短いが秀逸である。
カストロの偉大さ、ゲバラの純粋さを再認識させる内容である。
カストロにとってゲバラは要素のひとつ、
重要ではあるがマルティに比べれば小さな要素にすぎない。
一方、ゲバラは純粋であったがゆえに成功し、同時に失敗した。
その純粋さが、カストロの偉大さに気づかない人々の心をも打つ。
というわけで、ゲバラはこれからも、
カストロなど比較にならないほどに愛され続けるのだろう。
日本でいえば、龍馬のように、である。
ナマのキューバ精神体現者の姿
★★★★☆
革命への献身、自己犠牲、弱者への思いやり、平等思想主義など、ホセ=マルティから受け継ぐ「キューバ精神」の体現者ゲバラと連れ添い、革命が成功する約10年の記録。
筆者のアレイダも革命戦士としてゲバラを尊敬し、本書の内容も神格化されたゲバラ像を覆すような下世話な事は書かれてはおらず、まるで芸能事務所公認のスターの私生活本のようだが、ゲバラの家族と妻を愛すロマンチストでありながらも、自分と自分の家族のエゴを廃し、革命という目標の為に、自分の生活を律して生きた様子はよく分かる。
ゲバラが生きていれば、カストロのように米側の誹謗中傷・罵詈雑言に曝されたのだろうが、その精神と行動の矛盾を見せることなく、キリスト像のような死体を公開され、ファッションとして世界中に広まる結果となり、さぞや米はほぞを噛んでいることだろう。
本書は、ゲバラの本を数冊読み、ゲバラの生きた背景を知った上でないと、登場人物やシチュエーションが分かり辛いが、思想に共鳴してでなく、ゲバラのTシャツを着る多くの人たちにも、キューバ革命や、資本主義の総本山アメリカの隣国ながら、世界で最も理想に近づいた共産国としてのキューバを取り巻く事情も頭に入れて読んで欲しい本だ。
よくぞ、書いてくれた!と感動の本です
★★★★★
「ゲバラ伝」というだけでなく、さまざまな面でおもしろい本だ。ゲバラを最も愛し、彼に愛された人によって書かれた、まさに「愛」の結晶の本だ。特に、別れが近づく後半は涙なしには読めない。なぜ、妻アレイダさんがゲバラの死後、沈黙し続けたのかがわかる。40年たっても癒えない哀しみが胸を打ち、愛する人を喪うことについて考えさせる。
「僕を助けてよ」。ゲバラの心の底の叫びが、初めてわかる本でもある。最後に妻に捧げた初公開の詩を読めば、彼がどんな心境でボリビアへと旅立ったかがわかる。家族愛と世界革命の狭間にあって身を裂かれ、震え、苛まれていたのだ。これほど正直で人間らしいゲバラは初めて見た(日本で流布している英雄的イメージととも少し違う)。
アレイダさん自身も革命闘士だが、農民出身の一女学生がどのように政治に覚醒し、都市ゲリラとなって革命に身を投じたかも詳しく描く。これまでは山岳ゲリラ戦ばかり、都市闘争についての日本語資料はなかったから、これはキューバ革命についての第一級資料でもある。
しかし、やはり興味深いのは、ゲバラと出会ってからの、彼女の細やかな記述。山中での出会い、ゲバラからの告白、二人で恋を育む日々、初夜、前妻との葛藤……。革命新政権樹立の怒涛の日々を縦軸に、新婚生活を横軸にした、なんともユニークな記録だ。
6年の結婚生活の描写はときに生々しい。どんなに外国に一緒に行きたくても「妻だからといって特別視できない」と許さないゲバラへの苛立ち、流産、女性秘書への嫉妬、職業的地位を与えられない立場、子育てに追われる日々……。アレイダさんは複雑な女の気持ちを素直に打ち明けている。
この本のおもしろさは、言っちゃ悪いが、オールドタイプの“ゲバラ好き”にはわからないかも。ゲバラって、こんなに感受性豊かでしっかりした女性が好きだったのか、とわかる本でもある。
残念ながら期待していた内容ではありませんでした。
★★★☆☆
【人間・CHE GUEVARA】が描かれているという前評判を耳にしておりましたので、その方面の期待をして読ませて頂きました。 細かいエピソードがいくつか書かれてありましたが、「CHE GUEVARAの新たな一面を知ることができた。」とは正直思えませんでした。 “完璧な”人間という文脈で終始一貫して描かれており、例えば(仕事・家庭での)<失敗>などについてはほとんど言及されておりません。 他人であったもの同士が新たに家庭を築く際、それぞれの性格や考え方の違いからどの夫婦にも多かれ少なかれ軋轢や衝突があるはず。 それについてもほぼ触れられていない。 CHEの人間臭い部分を感じられなかったのはなんとも残念なことです。
原書にそう書かれているのか、それとも日本語への翻訳の問題なのでしょうか。 どうも<教条主義>的な鼻につく表現が少々強い感じもします。
***
ALEIDAさんもこれについては素直に匂わせていますが、CHEの伴侶に収まり、その後も秘書として彼の側にいた彼女に対する風当たりはかなり強かったようです。 それが理由のない嫉妬だったのか否か。 公の機関で夫婦で働くということは日本でもいろいろと議論のあるところのようですしね。
***
この本には人物名などの固有名詞がたくさん出てきますので、それが何なのか(その人が何者なのか)がわからないと、まったく何を書いているのかわからない。 この本から多くの情報を得たいのであれば、予めかなりの予備知識をつけておく必要がありそうです。
***
CHE GUEVARAに最近興味を持ち、これから彼についていろいろと学んでみたいと思った方は、まずは他の本である程度の土台をつくることをお勧めします。 本書からCHEを知る試みを始めてしまうと、かえって良く分からなくなるかもしれません。 <補完>的な役割を与えるのが最も適当だと思われます。