退屈しているヒマなど、僕には一生ないと思う
★★★★☆
バイオリニスト葉加瀬太郎が30歳の時に書いた「秘密の芸術メモ」です。
本書のカバー見返しに載っている10年前の葉加瀬さんの写真を見ると、今の葉加瀬さんとは180度印象が違います。音楽家として活躍していて、今より相当とんがっていたようです。
そんな葉加瀬さんのバイオリニストとしての顔、作曲家の顔、画家としての顔、ひょっとしたらシェフになっていたかもしれないというほど料理好きの顔を見せてくれるのが本書です。
冒頭で葉加瀬さんは「男が必死で何かに取り組むときの動機というのは、(中略)女の子にモテたかったから」と、自分の情熱の源を明かしています。バイオリンを習いはじめたのも、うまくなりたいと思ったきっかけも、同級生の女の子がバイオリン教室に通っていたからです。
コンクールで西日本の2位になったことから、ますますやる気になり、葉加瀬少年は芸大を目指す若者が集まる堀川高校に入りました。音楽漬けの毎日がはじまり、芸大に入ってからもオーケストラを掛け持ちして演奏し続けました。
充実した生活が一段落した頃、葉加瀬青年は作曲やバンドにはまり、普通の芸大卒業生と違う道を歩きはじめます。
自分の歩んだ道を振り返りながら発する葉加瀬さんの言葉は、自信と教訓に満ちています。
たとえば、次のような言葉です。
「好きなことをやっていられるのは、むしろアマチュアだ」
「創意工夫のネタは、まわりにいくらでも転がっている」
「退屈しているヒマなど、僕には一生ないと思う」
「自分のなかにある『表現したいもの』が根っこの部分に
なければ、表現する資格がない」
「自分を感動させることができないような人間には、
人を感動させる芸術など作れるはずがない」
今は3枚目でテレビに登場することの多い葉加瀬さんが、本当はすごい芸術家だったことが納得できる一冊でした。