理科系出身者の感想:数学に苦手意識がある人向けの本。
★★★☆☆
映画にもなった小説「博士の愛した数式」を愛する私は、Π、e、iの3つの数が奇跡的に結びつくあまりにも美しいオイラーの等式の周辺を再勉強するべく、まずΠからということで本書を手にとったのだが、結論を先に言うと、理科系出身者には物足りない本である。
Πの値を探る歴史や高校で習う微積分を応用して円錐等の体積や表面積を求める、といった記述が多い。有理数と無理数の違い、循環小数、Πの値を求める無限級数や無限積にも触れており、Πの値を求める無限級数は三角関数のテイラー展開から求めることを思い出せたのは収穫だったが、ライプニッツの公式を求める説明はちょっと省略しすぎの感がある。その他のΠの値を求める式や何故かΠが登場するビュフォンの定理、さらには正規分布の確率密度関数も扱っているが、定理の証明や式の導出は議論しておらず、Πはこんな所にも登場する不思議な数ですよ、という程度の紹介にとどまっている。本書は数学に苦手意識のある人向けの軽い読み物と評することができるだろう。
なお、本書では省略されているΠが無理数であることやウォリスの無限積の公式の証明はWikipediaで調べられるので、本書が物足りない人はそれを参考にすることを薦める。また、89年の発売から改訂されていないので、フェルマーの定理が証明されたことやΠの桁数の現在の世界記録は当然本書に載っておらず、89年当時の記載のままであることにも要注意。