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現代文明を考える―芸術と技術 (講談社学術文庫)

価格: ¥614
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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原題 art and technics、1951年に発表された著作 ★★★★★
三浦雅士氏の「身体の零度」巻末の参考文献集で大きく取り上げられていたうちの一人が、本書の著者でもあるルイス・マンフォードだった。「身体の零度」自体が非常にいい本だったので、ルイス・マンフォードの著作を読みたいと思っていたところ、先日この本を見つけた。
 この著作自体は、1951年にコロンビア大学で行った講演を基に纏めたもののようで、六つの章に分かれている。以下、

 芸術と象徴
 道具と目的
 ハンディクラフトからマシーン・アートへ
 標準化・複製・選択
 建築における象徴と機能
 芸術、技術、文化の綜合

 と名付けられた章で、芸術がもつ象徴化の効果と、技術が持つ目的達成のための機能化の効果をそれぞれ明らかにした後、芸術と技術とは代替的な存在ではなく、芸術のうちの技術的側面、技術のうちの芸術的側面がそれぞれ、芸術と技術をより強力にすることを示す。この議論のうちにも様々な実例が示されるが、具体的な分野として、ここでは印刷術・写真術などの複製芸術、建築の二つが取り上げられている。そうした議論は常に一つの焦点を設定した上で展開されていて、それは、取り上げられている事柄、視野のうちに収められているどんな事柄も人間存在があってこそ、人が生きていること、人が生きていくこと、生きていて生きていく人がどんな状態にあるのか、どんな状態であるべきなのか、という意識、ヒューマニズムという一言では捉え切れないだろう著者自身の人間への思いだ。結果として、本書は読み手に具体的な議論の持つ説得性と、身体的に滋養になるような、日々の振る舞いについての実践的手引きを与えてくれる。それは、技術の進展が齎す無際限な生産と消費への誘惑と、芸術の齎す無際限な象徴化や妄想への誘惑、その間で自分自身が望む価値を見極め、誘惑を続ける事象から自分をコントロールすることと述べられている。

 読み終えた後、この著作が発表された1951年という年を見て、何か暗示めいた考えが浮かんだ。この年に、日本はサンフランシスコ講和条約と日米安全保障条約を締結して国際社会に復帰し、アメリカに枠づけられた形で戦後復興を実現していった。その結果、2008年現在の日本でもここで描かれている技術の圧倒的優位と芸術の過度の象徴化・妄想化という社会状況は構造的に生き永らえているように見える。この著作はその内容の効果を失っていないし、芸術を制作する人には特に有用な1冊になり得ると思う。