赤い道と緑のRの文字が印象的な「R荘」や、鳥の歌声が聞こえてきそうな「さえずり器械」など、詩と音楽性にあふれたクレーの絵の数々。「黄金の魚」と「黄色い鳥のいる風景」には、「クレーの絵にうながされて詩を書いてきた」と語る谷川俊太郎の同題の詩がついている。
ナチスに追われ故郷のスイスに戻ってからのクレーの晩年は、重い病気との闘いの日々だった。だが、60年間の決して長くはない生涯に、クレーは9000点もの作品を残している。つぎつぎ新しい材料や手法を用いて、何でも自由に描いたクレーの絵は、誰もがどこかで目にしたことがあるだろう。
34×26センチの大きな紙面が迫力満点。いま生まれたような形や、色や、画布の布目までが鮮やかに息づいている42点の絵と伝記を、親子でならんで楽しみたい。この世に色と形というものがあって本当によかったと、つくづくうれしくなってくる画集である。(中村えつこ)