著者の日高敏隆は動物行動学が専攻で、現在、総合地球環境学研究所所長。昆虫や魚類、ほ乳類などの幅広い研究で知られている人物である。また、生物が生きて殖えていこうとしているのは、個体が遺伝子によって操られているからであるという論旨からなる、リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』(紀伊國屋書店)を翻訳した人物としても知られている。
著者は自然を、調和のとれた美しい場所とはとらえていない。むしろ、自然を「闘争と競争の場」ととらえている点が特徴であり、「昔はよかった」で終始しがちなエッセイとは一線を画している。
さらに著者は、人間のロジックと自然のロジックがせめぎあう「人里」をつくろうという、ユニークな案を提唱している。人工的な親水公園や森ではなく、かといって人間を完全に拒む原生林でもない「人里」である。生物同士、生存と繁栄をかけて常に争っているのだという事実を前にすると、「自然との調和」や「自然にやさしく」という言葉は、人間側のおごりにすぎないようにも感じる。
しかし、そんな主張を声高に叫んでいるわけではない。動植物の性の不思議や、季節を感じる能力の不思議などを、学問的に難しいことは抜きにして、わかりやすく描いているのが本書である。柔らかなタッチの挿画にも心和む、肩の凝らないエッセイ集である。(朝倉真弓)