新書にしてこの密度。碩学の手になる極上の入門書
★★★★★
世界のキムラ先生に推薦など僭越の極みと知りつつ薦める。
生物学の分野で良い入門書・啓蒙書は数多いが、それらの中にあっても、
この本は顕著な輝きを放っている。
調子に乗って「分子進化の中立説」を購入したら難しくて歯が立たなかったのは
よい思い出。
すばらしい
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ラマルク、ダーウィン、メンデルの進化説から、フィッシャー、ホールデン、ライト、マラーらによって開拓された集団遺伝学、そして進化の総合説を概説するのが本書前半の内容。続いて、自然淘汰、突然変異、適応といった話題が続き、分子進化学と中立説の説明へ。進化論の歴史が非常によく理解できた。集団遺伝学と分子進化学、中立説の箇所は数式も随所にでてくるが、重要な概念や定数がどう定式化されているのかが具体的に分かるという意味でよかった。数式の持つ意味も言葉で説明されていることが多く、分かりやすさへの配慮も豊富。世界的かつ重要な仕事をした著者ならではの視点で、この説は重要だが、あの説は喧伝されているほどでもないなど、フランクな意見が散りばめられているのも面白い。科学ジャーナリストによる本とは一線を画す本格的内容。出版されて20年たっても本書の重要性は変化していないのではないか。
木村博士の中立説解説
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進化の中立説が初めて一般人の目に付いたのは、「科学朝日」1968年8月号だったか?今となっては良く憶えていない。確かその年に遺伝学の国際会議が有り、その時の木村先生の講演が分子進化の「中立説」であった様に思う。高校生であった投稿者は、科学朝日を読みながら、「中立説」てなんだ?と思った。ダーウインの適者生存に洗脳されていた私を初め、多くの人々は、事に寄ったら今でさえも、その様な刷り込みに毒されて居るのではないでしょうか?
でも、そのような「目的」的、に遺伝子は変異するのではなく、遺伝子は、形態的な影響の無い部分が定時間に自動的に変異するのだという。「進化は強者が弱者を喰らい」、「強者は益々凶暴さを備えるようになって行く」のだというのが、巷に於いて理解されている、ダーウインの適者生存であると理解している。だが、そんな物は皆、曖昧な偏見か嘘に他ならない。確かに、ある一種の中での適者生存ならば、強者が弱者を追いやる、事は確かなのだが。
木村資生博士が、中立説を思いついたのは、集団変異の統計分析の手法なのだ、数学が得意であった木村博士だが、生物学に理論物理学の方法を持ち込むというのが願望であったらしい。今では、この中立説は、市民権を得た感じだが、木村資生さんが、言いだした頃は、多数派には、恐らく鼻で哂われたに相違ない。アラユル学説に言えることは、「真理は少数派に始まる」と言う事だ。
木村さんは、静岡県三島の国立遺伝学研究所で、苦闘の末にその理論をつむぎ出したのだろうと想像する。遺伝子変異は無作為に不可避に起る、それは、分子時計と言う風にも説明されている。しかも、それは時間的に定期的に、遺伝子の分子それ自身で自律的に起りうる。何故、遺伝子の分子は、頻繁に変異が起きるのか?それは外的な要因か?それとも内的な要因か?四つの塩基は水素結合で結びついているが、それは、この地球にある微量の放射線による変異なのか?比較的弱い結び付きであるから、この結合が自律的変異のメカニズムを導き出しているので在るとしたら面白い。
本当に解明できたら素晴らしい、統計数学を駆使した、この理論遺伝学は、木村の理論を越えて、様々に伸び連なっていく分野であろうし、今後、更なる生命の進化の未来を予知する、定量的理論に変貌するに違いない。
正しく理解する難しさ
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生物進化に関する入門書ではあるが,内容は高度・本格的で,私のようなアマチュアは本気で取り組まなくてはきちんと理解できない。
進化学に関する現代の科学の知見を,研究の歴史を踏まえつつ偏りなく記述した本で,名著と言える。現代の知識人はこのレベルを把握することを目標としたい。
それにしても,この本を読んで考えさせられるのは,生物進化を正しく理解する事の難しさだ。
何となく突然変異と自然淘汰で分かった気になっているのが大方のアマチュアだと思うが,これが事実かどうかを検証するには数学的・統計的な扱いがどうしても必要になってくる。
「分子進化速度」の概念も正確に理解するのはかなり大変だ。
口当たりの良い表現でアマチュアに迎合するのではなく,読みにくくなるリスクを冒しても学問的に厳密に記述しようとした一流学者の気骨を感ずる。
不朽の啓蒙書
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「分子進化の中立説」は分子レベルの進化に関する現代の定説として確立しています。高校の教科書なんかには「進化に関する多数の仮説の1つ」というニュアンスで紹介されていますが、とんでもない話で、その正しさはとっくの昔に確立しており、現代分子生物学の指導原理です。
本書は、中立説の提唱者ご本人が、進化学全体を展望したものです。豊富な学識を新書版1冊に圧縮しているため、読みやすくはありません。最初は前後を行きつ戻りつ読む必要があります。一度理解してから通読すると、何気ない記述にも重要な意味が込められている、その含蓄の深さに感銘を受けます。新書版だからということか、反対学派に対する歯に衣着せぬ批判も楽しいところで、こういう学者の本音は論文では読むことが出来ませんから。なお、進化学全体の展望であるため、中立説についての詳細な解説ではありませんのでご注意下さい。
この本を読めば生物学の見方が変わると思います。名著です。