そんな、ありそうでない「サザエさんの家」が、本書の中にあった。昭和26年に当時の住宅金融公庫の融資を受けて建てられた木造2階建ての小泉家住宅が、いまも「昭和のくらし博物館」として、当時のままの姿で生き続けている。玄関を入ったところが板の間で、次が茶の間、左手がぬれ縁。奥の6畳間から、いまにもカツオやワカメがかけ出してきそうな気がしてくるではないか。
この小泉家の長女で、博物館となった我が家の館長を務める著者が、この懐かしい家の家具調度を家族の思い出をたどりながら詳細に説明してくれる内容が、そのまま昭和の生活文化史になっているのだ。ちゃぶ台を囲んでのささやかな夕食、夏の楽しみはタライの行水、あかすり、軽石を入れた洗面器を抱えての銭湯通い…。子どものころ、引き出しの奥にしまったままの宝物を見つけたような気分になった。
後半、小泉家を離れて、道具の歴史を語る部分は、かなりの労作だが、いまひとつ印象が薄い。それを使う人々の顔が見えてこそ、道具はモノを言うのだろう。(長井好弘)