ページを開けば即座に分かるが、全編ペンによる植草の手書き文字と、銅版画とイラストによるコラージュがこの日記を大きく特徴づけている。使うペンはその日の気分によって変えていたようで(ときに1日の記述のなかでも)、数種類のペンのいろんな表情の文字を見ることができる。日記の行間には、作者が選んだイラストなどがあちこちに散らばって、さらに見た目を楽しませてくれている。印象的なのはバスに揺れながら線描した「ブルブル絵」だろう。その瞬間著者が生きていたという生々しさが、時間を超えて直截的に伝わってくる。
J・J氏の1日は、日記を読む限り、読書と散歩と執筆に尽きる。ほぼ毎日東京のどこかを歩き、本を探し求めている日常が細やかに記されている。そこには、文化の旗手だとか若者のカリスマだとかといった大仰な評価などどこ吹く風といったような、飄々としたひとりの老人の生活があるだけである。(文月 達)