本書は、そんな消費者のレーダーをかいくぐり、効果的に広告メッセージを伝えるにはどうすればいいか、気鋭の広告マン2人の体験をもとに書かれている。著者のジョナサン・ボンドとリチャード・カーシェンバウムは、ユニークな切り口の広告戦略で知られるアメリカのカーシェンバウム・ボンド&パートナーズの創設者とクリエイターである。
本書がいう「アンダー・ザ・レーダー」とは、雑誌の記事広告のような小手先の手法のことではない。マーケティングの過程をトータルに考えた上で、どのような切り口で攻めるのがいいのかという広告戦略の基本について述べている。基本ではあるが、その実践方法の斬新さとクリエイターとしての感性には舌を巻く。
序章では、彼らがいかにして「アンダー・ザ・レーダー」型の広告で成功を収めてきたかが語られ、次いで第1章では現在の消費者の特性と攻略法について述べられる。第2章「アンダー・ザ・レーダー型クリエイティブの発想法」では彼らがこれまでに手掛けた刺激的な広告の数々とその戦略が紹介される。そして本書のヤマ場となる3章から7章では、「アンダー・ザ・レーダー」型広告に求められるマーケティングや広告戦略、各種メディアの特性と効果的な使い分け方法などについて述べられる。ユーモアが自社の広告を際立たせるきっかけにはなってもブランド認知には直接つながらないこと、フォーカスグループ調査においてメルセデスの購入者が「この車を買った理由は、実は友人に見せびらかしたかったからだ」とは決して言わないことなど、従来の手法の問題点をズバリ指摘しているのは痛快極まりない。4章の「口コミを利用する」はやや具体性に欠けているが、それを差し引いても参考になる部分は多い。
大量の資金を投入したのにもかかわらず、消費者の記憶に残らず消えていくテレビCM。封も開けられずに捨てられるダイレクトメール。ゴミ扱いされ、広告効果どころかネガティブな口コミまで生んでしまう的外れのEメールやバナー。もう、同じ失敗を繰り返したくないというクリエイターや代理店、広告主は、一度本書をひも解いてみるといい。(土井英司)