「大人のための」歴史教科書
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高校の世界史授業は、ある国の歴史をかじっては他の国の歴史を時間を遡ってやり直す手法であり、嫌いになる(ある時代の各国間のつながりがわからなくなり混乱する)人が多い。私もその一人だ。このアプローチに対し、この本のほうは、日本、中国、朝鮮の東アジアの同時代に並行した歴史事象を、まるで宇宙から見ていたように網羅的に同時に書き連ねることにより、同時代に東アジアという広い地域で何が起き、各国がどう関係していたのかを概略説明している。その意味で、「大人向けの」教科書としている。この分野の入門書として、広くおすすめしたい。「教科書」らしく、横書きで、ある時代に発生したエポックメーキングな出来事を各章立てし、それに解説を加えている。分量が適当で、読みやすい。また、書き手は、その分野での専門家ばかりで、記述内容は必要最小限であり、全体として統一感がある。これは編者の力量に負うところが大きい。また、何よりもこの本には、その時代に生きた人たちが生き生きと描かれ、歴史は「人の営みの積み重ね」ということがよく解る。19世紀に東アジアの人たちが、西欧諸国のシステムに組み込まれていく過程において、それぞれの国情に照らし、何に悩み、どう考え、どう行動したのかが手に取るようにわかるのだ。専門家集団の研究の賜物と言えよう。ただ、難を言えば、より深く勉強したい時の参考文献に古いものが多く、廃刊になっているものも多いことぐらいか。
待ってました!
★★★★★
すばらしい。こういう本が出るのを待ってました。もはや日本を知るのに、日本だけ見ていてもだめだと思っていた。東アジア全体を俯瞰した視点が必要だと思っていた。日本のみならず、中国や朝鮮半島やロシアなどの本も多数出版され、研究が進んでいるのはわかっていた。が、それらを全部読めるほど時間もお金もない。一冊で、できれば読みやすい本があればと思っていたところ、この本である。「大人のための」という案配がちょうど良い。新書ほど軽くなく、専門書ほど重くない。各章が短くなるよう配慮されており、少しずつ読むこともできる。おそらく編者の力量が発揮されているためであろうが、議論に統一感があり、まさに東アジアの歴史のダイナミズムを感じることができた。『東アジア国際政治史』も試みは良かったが、各章の執筆者の間で議論にムラがあり、統一感に欠けていた。読みやすさからも、手頃感からも、こっちがお勧めです。
加えて言えば、各章に「コメント」が付されているのが新しい試みであり、非常に効果的である。教科書にありがちな「コラム」ではなく、「コメント」になっているため、主筆者が書いている議論を、読者はコメントを読むことで、それを少し距離を置いて見直すことができ、それによって自分で歴史を考え直してみることができる仕組みになっている。このあたりも「大人のための」本だと言えるだろう。20世紀編も楽しみです。