読む進むうちに、アニメ製作は個人でするものではないとわかります。監督はその名の通り、大勢をまとめる仕事なのでしょう。原画、作画、カメラにそれぞれ指示が出ています。指示は、応援であったり、要望であったり、それぞれ異なる点に注目です。当時、絵を描くスタッフが新人だったようで、みんなを引っ張って作ろうとする、監督の姿勢が読み取れます。
アニメが、大勢のスタッフの、綿密な手作業で出来あがることがわかると、ルパンの第2シリーズの最終話と145話で、宮崎監督がわざと実名を隠し、会社名をペンネームにした理由が想像できます。それはスタッフに対する思いやりなんでしょうね。意外に山田康雄のアドリブが少ないことに驚きました。伏線の張り方がとても細かく、演出が練られていて舌を巻きます。アニメとしての嘘のつきかたを自覚した上での、満載艦なテクニックに思い知らされます。
個人的に好きなのは、不二子がクラリスに自分がスパイと知らせるシーン。衣装を脱ぎ捨て迷彩服になるのですが、「下着じゃなくて残念でした友永サマ」とあって、それを書くだろうスタッフのひとりまで気を使う様と、その理由が微笑ましくあります。思えば、この作品、銭形突撃隊の警官や、カゲのひとりまでカッコヨク描くと同時に、スタッフひとりひとりまでカッコヨク仕事をさせているのだなと。読んで気持ちの良い作品です。
本作は、宮崎駿による傑作『カリ城』の絵コンテを、完全収録した一冊。たぶん過去にも同様の書籍が刊行されていたと思うが、記憶が定かではない。読んだおぼえはあるのだが……。今回は「スタジオ・ジブリ絵コンテ全集」というシリーズでの刊行。ゆえに月報がはさみ込まれているのだが、これが読み応えある拾いものだった。月報読みたさに、思わず他の巻も買いたくなる出来映え。
もちろん本文(?)の素晴らしさは言わずもがな。アニメーター出身の宮崎による絵コンテは「マンガとして読める」完成度を誇り、実際まったく誇張ではない楽しさでサクサク読み進めるのだ。!が、本書の真価は、ストーリーを追うことにあるわけではない。宮崎による演出プランを確認することにこそ、本書の意味があるのだ。
既発の『カリ城』DVDでは、特典として、映画と並行して絵コンテ画像を走らせることのできるプログラムが付属している。が、絵だけの絵コンテなんか意味がない。ページの右半分に書き込まれた多量の書き文字こそが重要なのだ。演出プラン、キャラクターの心情、作画への指示、そしてラクガキ……。本書ではすべて確認できる。
原本のおよそ半分のサイズに縮小されているため、読みにくい個所もあるが、原寸大で刊行したらお値段は3倍ぐらいになるはずだ。この本の性格として「若いクリエイター志望者が使う教科書」という側面は強いだろうから、安く売るのは必要なこ!となのだ。全然安くないじゃんとブーイングする、そこの若くて貧乏なあなた。この本は道楽の本じゃなく、ツールであり、購入はすなわち投資なのだ。あなたがエンターテインメントを志すならば、最高の教科書が手に入るチャンスだということを、よく考えてみるといい。