それぞれの生き方
★★★★☆
重い本である。
戦争体験記というものは、Aが完全悪でBが完全善、
「皆さんBのような体験をした人もいるのです。こういう人に比べたら私たちは何と幸せなのでしょうか?今の幸せをかみ締めましょう」
というメッセージを受け取らなくてはならない、そんな教育を受けてきた。
今回も収容所での体験談を第三者である作者を通じて知るわけだが
そういったレポートは概して偽善的である。
しかしそういった偽善という批判を受けつつ伝えなくてはならないことは沢山ある。
ここに登場するのは収容所の中でも生存者が殆どいない生き残りの子供たち
収容所で「絵」を描きながら、いつかそこから出られる日を夢見てきた子供たちのインタビューである。
中にはアウシュビッツ(今はその地名はない)のことは全て封印しなくては生き残れなかった人、そしてそのことを語るのを義務として「語り部」としてその忌まわしい記憶を伝えている人、さまざまである。
収容所の子供たちの絵が数点紹介されているが、それらの絵が思ったよりおおらかなのに驚いた。そこで子供たちに絵をかかせた教師の話が紹介されているが、彼女の功績は大きい。
絶望の中で子供たちに生きているという自覚を呼び起こしたこの教師の役割を伝えただけでもこの本の価値はある。
今でも世界中で悲惨な待遇を受けている子供は沢山いる。
そういった人を「今」救う活動の方が大切だ。
日本人として中国のことを描くべき、そういった批判も作者にあったという。
しかし「絵」を描くという行為が子供たちに「生」を呼び起こした。
それが生き延びたという奇跡に繋がったという事は芸術の持つ力を伝えたという意味ではこの本の役割は大きい。