本書は、その江夏が自らの野球人生と当時のプロ野球界の真相を語るという、ややユニークな切り口で書かれた自伝である。複雑な家庭環境のなかで育まれたハングリー精神をもとに、いかにして江夏が成長し、超一級の投手として活躍するにいたったかが語られている。18年間の野球人生でかかわった人々を遠慮会釈なく批判しているところもある。こうした言いにくい部分を大胆に言ってのける反骨精神は、江夏ファンにとっては痛快この上ないだろう。
多くの人が知るように、江夏の野球人生は決して平坦な道のりではなかった。長嶋のような華々しい引退とは正反対に、ボロボロになるまで投げ続けたし、後に覚せい剤服用で逮捕されるなど不祥事もあった。私生活でも愛児が死亡したり、離婚をしたりと、まさに波乱万丈の人生だった。
本書はそんな江夏のすべてを包み隠さず書き切っているため、時に不快感や嫌悪感を与えることがあるかもしれない。だがそれだけに、つらい境遇にある人や困難に直面している人に勇気と不屈の闘志を与えてくれるのではないだろうか。(堀 研二)