今回の新作は3分の2は書き下ろしのポップソングになっており、フィリッパ・ジョルダーノの音楽的土壌が、極めて上質なアメリカン・ポップスに裏付けられたものであることが、さらに明確になった。全体の曲調はみなゆったりとして懐深く、気持ちをうっとりさせてくれるアルバムに仕上がっている。
とりわけアルバム・タイトル曲の「ロッソ・アモーレ」は愛に満ちたスケールの大きな素晴らしい名曲で、メロディの流れは感動的である。「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」の作者として知られるフランチェスコ・サルトーリと、ホイットニー・ヒューストンやセリーヌ・ディオンを生んだアメリカ屈指の名プロデューサー兼作詞家のデイヴィッド・フォスターとのコラボレーション。他の曲でも、イタリア映画音楽界の巨匠エンニオ・モリコーネや、イタリア・オペラ界の頂点に位置するミラノ・スカラ座音楽監督リッカルド・ムーティの夫人で、ラヴェンナ・フェスティヴァル総裁クリスティーナ・ムーティが参加しており、問答無用の豪華なスタッフである。
オペラ・ナンバーで特に注目されるのは、プッチーニ《蝶々夫人》から「ある晴れた日に」と、「ハミング・コーラス」。プッチーニの甘美な旋律と玄妙精緻な和声がポップスに転換されており、かなりどっぷりと浸れる。(林田直樹)