本書の誕生のきっかけは、当初「森林の知識の辞書」を書こうと考えていたシートンに、『ジャングル・ブック』で有名なノーベル賞作家、ラドヤード・キプリングが、小説にしてはどうかと助言したことに始まる。世代を越えていまなお読み継がれているのは、鹿狩り、井戸掘り、皮なめしといった「ウッドクラフト(森林技術)」の情報を、少年たちの姿を通じて描き出しているからだけではない。仲たがいしていたサムの父親と少年たちの師であるケイレブとの和解のドラマを織り込むなど、物語にも深みがあるからだろう。
本書は、人と自然、大人と子ども、そして親と子という3つの大きなテーマへの答えがあちこちにちりばめられている。オノやナイフ、銃を与えながらも、豊富な知識と経験と技術で子どもたちを正しい方向へと導いていく大人たちの姿が印象的だ。(中島正敏)