家族と共に山に暮らす少女は、自分の家族は裕福ではないと思っている。実際に金銭面では厳しく、実に質素に暮らしている。ところが父親は豊かだと言う。引っ掻き傷だらけの大きなキッチンテーブルに家族みんなで座って話し合えることは豊かなことだと。そして少女は「豊かさ」の意味を考え始める。毎日空を仰ぎ、風を感じ、雨の訪れる香りを嗅ぐ。サボテンの花が開くのを見て、星の下で眠る。そして少女は、自らの意志で選択したシンプルな生活の質素さと、金銭面の貧困の間には大きな違いがあることに気づく。
1960年代のラヴ&ピースを謳ったアメリカ、そしてその時代を改めて振り返った1990年代半ばの時代の空気をまとった1冊である。甘さのない強い意志の感じられる線のイラストと、どこか歌うようなリズムの文章が、余計なものをそぎ落として、本書の主題をくっきりと浮かび上がらせている。(み)