布人形を作りはじめた少年期、各地をドサ廻りしたロカビリー歌手時代、ドイツの人形作品との出あい、そしてアングラ劇団の女形として注目された20代のころ。そんな異色の経歴の中に登場するのが、唐十郎や寺山修司、金子國義といった、現在においてもカリスマ的な人気を持つ文化人たちである。特に、公私にわたって親しくした作家、澁澤龍彦とのエピソードは興味深い。「澁澤さんにさえ認めてもらえたらいい」というほど、創作の支えとしていた澁澤へのオマージュとして作りはじめた天使の人形シリーズは、今では著者の代表作として知られている。
また、現在の球体関節を持つ作品スタイルが生まれた経緯や、屍体を連想させる「凍てついた人体表現」を心がけていることなど、創作に関する裏話も盛り込まれる。1960年代のアートシーンを駆け抜けた青年が、才気あふれる人形作家として活躍するまでをつづった本書からは、四谷シモンの芸術家としての原点が浮かび上がる。それと同時に、今はなき貴重な時代の記録としても、読みごたえがある。(砂塚洋美)