チャイコフスキー作曲の名作バレエ「くるみ割り人形」を1977年にアメリカン・バレエ・シアターが上演したのが本作品である。トニー・チャーモリが監督しスタジオ撮影されている。PBSで休日に繰りかえし放送されており、このたびホームビデオになった。我が子に文化的な贈り物をきちんとした理由をもって与えたいという親には満足のいくものだ。ゆったりとしたおとぎ話の筋書きはバレエ鑑賞の初心者をくぎづけにし、ボリス・アロンソン制作の見ていて楽しい舞台セットは豪華なジオラマの連続といえる。トルストイのいた帝政ロシア時代のクリスマスパーティ。少女クララ（ゲルシー・カークランド）は夢を見て、おもちゃ作りの名人ドロッセルマイヤー（アレキサンダー・マインツ）が作ったいきいきとしたおもちゃたちの住む空想の世界へといざなわれる。ドロッセルマイヤーは棒のように細い脚で跳躍し、ディケンズの物語のイラストから抜け出たような人物だ。いちばんの呼び物はもちろん、世紀の名ダンサー、ミハイル・バリシニコフで、彼の運動能力、精確なテクニックが頂点に達していた時期であった。オープニングのスローモーションのモンタージュが、バリシニコフの伝説的な滑らかな踊り、羽のように軽やかに完璧に宙を舞い、優美な弧を描く姿を図解している。バレエ組曲「くるみ割り人形」しか知らない音楽ファンも、ケネス・シャーマーホーンが陽気に元気よく指揮する名曲を通しで聴く機会を堪能できるだろう。（David Chute, Amazon.com）