山本精一を中心とする関西歌ものバンドの5枚目だ。前作『はじまり』はバンド・アンサンブル中心の、いわばサウンド指向の作風だったが、今回は歌そのものに比重を置くという、羅針盤の原点に戻ったような作品になった。演奏は過度に盛り上がったりせずにミニマルな平坦さを貫き、ギター・ソロなどの装飾も後退したことで、ほのかに明るく穏やかなメロディーと、山本のやわらかなヴォーカルが前面に出ている。
冒頭の「あたらしいひと」や10分以上に渡る大曲の「会えない人(月)」などは、このバンド史上屈指の美しいメロディーといえるだろう。研ぎ澄まされた言葉が並ぶ荘厳な歌詞の世界もあわせ、派手ではないが静かに胸に染み入ってくる、珠玉の8曲となった。“羅針盤流ポップス”がひとつの極みに達したといえる傑作だ。(小山守)