人情紙風船 [DVD]
価格: ¥4,725
哀しい映画である。貧しい長屋に住む浪人は、かつて父の世話を受けた男に士官を頼みに行くが、今日も門前払い。真面目で融通の利かない夫を持つ女房は、経緯をうすうす感じながら黙って耐える。長屋では首つり自殺があった。
楽しい映画である。その日暮らしの職人たちにとって、長屋はいわばワンダーランド。首つり自殺の供養を理由に今日も酒盛りが始まる。髪結いは嫁入りを迫られている質屋の娘を誘拐する。銭金のためでなく、意地を見せたかったのだ。ちゃっかり者の家主は、ここぞとばかりに質屋と交渉し、五十両で娘を無事に帰してやる。その五十両でまた今夜も酒盛りが始まる。
現在にも通じる、殺伐たる時代。タイトル通り紙風船のように儚い、人のこころの悲喜こもごもを、じっと見つめた天才・山中貞雄の視線の優しさ、温かさときたら。(斉藤守彦)