分析手順を獲得するためのテキストブック
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適当な経済モデルを下敷きに、現実のデータからモデルのパラメータを推定する。そして、推定したパラメータをモデルに戻し、(もしこういう政策がとられたら、こういう値をとるであろうというような)仮想的データをぶち込んで、モデルの内生変数の動きを定量的に(つまり、どの方向にということだけでなく、どれだけかということも)調べる。この種の研究の利点の一つは、政策効果をより正確に推し量ることができることにある。ただ、その習得には、徒弟的な要素があって、そのような環境に恵まれた人のみがギルド的にその特権を享受してきたという面が否めない。
本書は、そのような参入障壁を取り除こうとする真摯な試みである。この種の研究では、コンピューターの利用が必須であるが、本書は、GAMSという数値計算ソフトに依拠して、その実際的使い方を基礎から説明している。よって、卒論や修論を、いわゆる経済学の応用分野で、上述のタイプの研究をしたいが、指導教官がコンピューターに詳しくないという学生や、上述のタイプの方法で政策分析を行いたいと考えている実務家の独習書として機能する。
しかし、注文を付けたい点がないわけではない。第1点目は、代替的な数値計算ソフトウェアについては、第1章の脚注7(p.11)で軽く触れられているだけだが、人があるソフトウェアにコミットしようとする場合、それがどれだけの人に利用されているのかということも知りたいであろう。その点を考慮した解説も欲しかった。第2点目は、本書では、投資、貯蓄、資産選択といった、経済の動学や金融の側面は範囲外としているが、その種の問題に関心ある読者を考慮して、せめて参照するべき文献を幾つか示して欲しかった。
いずれにせよ、本書の出現は、多くの経済学徒にとって真の意味での福音である。評者自身も、今後の教育・研究に取り入れて行きたいと思っている。