本書に登場する警察官たちは、選りすぐりのエースがそろった精鋭部隊、警視庁捜査1課が中心である。彼らの捜査の手法や犯人たちとの息をのむような死闘をつづったのは、読売新聞社・社会部デスクの三沢明彦だ。一課担(警視庁捜査一課担当)や警視庁クラブのキャップなどを経て現職にある彼が、激務をぬって休日に刑事たちを訪ね、当時の捜査の舞台裏を丹念に取材し、まとめたものが本書である。
この意欲作に彩りを添えるのが、刑事たちの人間ドラマである。中でも捜査1課長の寺尾正大、「落としの金ちゃん」こと小山金七ら伝説の名刑事と称された男たちが数多く実名で登場し、難事件での命懸けの捜査の過程を微細なまでに伝えていく。しかし、どうして一記者が事実をそこまで知り得るのか。それは、著者の渾身の取材はもとより、昨今の警察不祥事を憂い、必死で任務に邁進する彼らを心から信じ、そしてその思いが刑事たちにも伝わるからこそ、実現したものなのだ。これは本物のプロの男たちの壮大な物語でもある。(田島 薫)