過去を乗り越えて、今を生きる。
★★★★☆
「爪先にキス」からの派生主人公として、攻から受に転じた
一途熱血青年恭也の、ずっと報われなかった恋愛半生の終点。
このシリーズ、正直本編に当たる「爪先にキス」「絶対運命方程式」
よりも一番愛着を抱いた作品で、2巻にして最終回というのが寂しいところ。
それというのも主人公恭也だけでなく、今回攻の相手役だった霧谷の
描きこみがとても深く、他2タイトルより明らかに進化した不破ワールドを
披露してくれていたところが大きい。
何故霧谷は暗闇恐怖症なのか、「親友」の写真を後生大事に仕舞い込み
ながらも「彼」の話題をタブーにするのか。
冷たい言動の中に時々含まされている、見えにくい優しさや包容力。
パワフルさが猪突する恭也に負けない存在感で、読者に「過去を乗り越える」
「今を生きる」という強さを見せてくれた素晴らしいキャラクターだった。
BLだとどうしても主役受の主張が前面に出過ぎるが、静穏な中でも
激しさと喪失した悲しみをいつまでも捨てられない姿は、氾濫する
「完璧過ぎるBL攻男」のパターンを見事に打破してくれた。
また、脇役の一人一人のさり気ないポジションも嫌味なく配置され、
霧谷の過去を知る唯一の人物である元学友小山など、他で主人公を
張れるほどの魅力の持ち主。
顔に「青冷め」の線を入れる表現など、絵柄は多少古さを感じさせるも、
ラストシーン、「既に過去のあの人」と今は2人になった「彼ら」が
交差する絶妙な演出。そして恭也が霧谷に対しての思慕を自覚するコマ割り。
「YEBISUセレブリティーズ」などの長編シリーズとはまた違った、
確実にレベルアップしている不破慎理のネームセンスは一読の価値有り。
人は過去を忘れなければ生きていけない。時には傷を舐め合う相手が
必要な夜もある。けれどそうして乗り越えながら新しい未来・相手へと
向かい合っていかなければ進めない。それを教えてくれる逸品である。