1950年代のステレオ初期に録音されたこの演奏は、特に「管弦楽のための協奏曲」(1955年録音)ではライナー独特のオーケストラ配置を反映して、コントラバスとヴァイオリンは左のスピーカーから、ヴィオラと金管は右のスピーカーから聴こえてくる。このステレオ感は効果的だ。引き締まった精力的で筋肉質な響きは、実に新鮮であり、呼吸する皮膚のようなエロスさえたたえている。ベルリン・フィルともウィーン・フィルとも違う、まぎれもなく究極的な別のオーケストラがここにはある。「管弦楽のための協奏曲」の最終楽章など、オーケストラの圧倒的な技とアンサンブルの冴えに眩暈がするほどだ。半世紀も前の録音とは信じがたいクオリティの高さである。ざくざくと推進する弦楽の感触が生々しく、ブラスは朗々と鳴り響く。たまらない快感だ。最後の「ハンガリーのスケッチ」は哀愁漂う素朴なメロディにほっとさせられ、いい余韻を残してくれる。(林田直樹)