ホーンビィは1992年に処女作として本書を発表し、本国イギリスで100万部を超す大ベストセラーになった。日本では2作目『High Fidelity』の邦訳『ハイ・フィデリティ』が、先に出版された。察するに、たとえ本国で大ベストセラーであっても、邦訳の編集担当者が日本で本書を先に出すのを躊躇(ちゅうちょ)したのだろう。イングランド・プレミアリーグ、アーセナル狂の男がつづった日記を、はたして日本人が理解できるのだろうか、といういう懸念があったに違いない。
とにかく生活の中心はアーセナル、寝ても覚めてもアーセナル。ホームでの試合がある日はどんな犠牲を払ってでもハイベリーに試合を見に行くことこそ、アーセナルへの忠誠と信じて疑わない。アーセナルにかける愛をひたすら書き上げている。イギリスでは、「生涯のうち、妻を替えることはできても、応援するフットボールチームを替えることはできない」といわれているそうだ。本書を読むとそれもうなずける。
最近プレミアリーグで外国人枠が緩和されたため、選手の中にはイギリス人が少なくなり、議論の的となると同時に、ファンのチーム離れが起こったと聞く。この状況についてニックがどう考えているか知りたい。(鬼杖 猛)