又よ
★★★★★
先に出版された3つの巷説百物語の仕掛け人である
又一の若かりし頃のお話し。
なぜ、御行になったのか。
人死にをどうしても飲み込めないまだ青い又。
足掻く。足がく。あがく。
あちらを立てればこちらが立たず。
こちらを立てればあちらが立たず。
理不尽を理不尽として認めない。
だけれでも口先八丁でまだ、世の中をひっくり返せない又。
だが、そんな又だから、
裏にも表にもなりきれない、幽世と現世を行き来する又の
成長期を記した作品。
巷説百物語に始まり、「続」、「後」と続いて
終わったかに見えたが、今作を読むことで、
さらに又市が心に刻む闇と影を見れる。
否。
この物語を知らずして後の、巷説百物語は無い。
又が、一人。背負おう物はあまりに切ない。重い。
誰もが白黒つけられない物を彼一人で白黒つけようとする。
今までの巷説百物語を読んだ人には「あぁ、だから又市は・・・」
これから巷説百物語を読み人には「又市って奴ァよゥ・・・・・」
どちらにしろ、
本書をまず手にして読むが良いと思う。順番は関係ない。
初めて本書に手を出す人は、
この一冊で完結する物語とせず、この後の物語も必ず読み切って欲しい。
一人の。男の。御行が。世を謀る。
その真の意味を知って欲しい。
マンネリ。
★★★☆☆
巷説シリーズは、やはり『巷説百物語』が一番面白い。この新刊をもって改めて実感。
又さんが青いのは仕方ないとして、お話の筋が「こうなる?あ、やっぱり('Д`)」とすぐに分かってしまうのは「仕方ない」では済まないと思うのは私だけか?
しかし、百介はやっぱ又さんとは「住む世界」が違いますね〜。彼がほんのわずかに現れたシーンは、何だか「ほんわか」しました(笑)
ここから始まる『巷説』。
★★★★★
江戸時代末期から明治初期を舞台にした『巷説百物語』3部作の、更に前の時系列を描いた作品。
依頼人を取り巻く状況や土地に関わりのある妖怪を実在するかのように仕立てて、物事を解決する『仕掛け仕事』。
仕掛け仕事の後には、巷に噂(巷説)が残るばかり。
本巻は、後にその仕掛け仕事のプロとなる又市の、まだ駆け出しの頃の物語。
本巻に収められた6篇は、又市が青臭い若造ということもあり、人情時代劇の様相すら呈している。
無論、ただの人情物で終わらないのが京極流。
6編の最終章において、あなたはそれを実感するだろう。
3部作既読なら、又市の青臭さをはじめ、前作までとの差異を込みで楽しんでいただけることだろう。
また、同シリーズを未読の方は、ここから読み始めるのもアリだ。
又市がいかにして御行になったのか。
★★★★★
「巷説百物語」シリーズ第4弾。
第1弾の『巷説百物語』よりもずっと前、主人公の又市がまだ御行になる前の話。
又市がまだ若いっていうこともあって、『巷説〜』や『続巷説〜』なんかに比べると仕掛けがショボいし、その点を楽しみにしている人には前作までと比べて面白さは落ちるかもしれない。
が、今作は当時の江戸の街の雰囲気や、武士とそれ以外の階級との慣習の違い等が前面に押し出されていて、シリーズ中最も「江戸」の雰囲気をよく感じ取れる内容でリアル。
また、一つの一つの仕掛けはイマイチでもやはりラストに向けて話が加速するところは面白過ぎてしょうがない。
これまでの作品と比べて何度も出てくる良い感じのキャラが多く、感情移入もしやすい。
この話が『後巷説〜』まで繋がっていくと考えると凄い話だと素直に思う・・・
仕掛けにあんまり期待さえしなければ間違いなく楽しめるはず。
読み始めは「前作までの方が面白いかも・・・」と思ったが、一番好きかも(笑)
職人又市の修業時代
★★★★★
巷説百物語の最終巻。時代順としては4冊でもっとも早く、又市の修業時代、ということになる。
6編の中編は、いずれも構成・表現ともにほぼ瑕瑾のない見事な出来映えであると思う。作者らしい(しかし私の嫌いな)、独特の「逆説止め」文がまだわずかに残っているけれど、初期作品に比べて見違えるように腕を上げている。毎度施される仕掛け自体は現実には確実性に乏しいと思われるため、リアリティーを求める立場からは難癖のつけようもあるけれど、人物の造形がきちんと描かれているから、フィクションと割り切れば何の問題もない。
ただ私は、又市の過度のヒューマニズムに違和感を覚えた。私は、「この世に存在すべきでない命」は間違いなくある、と思っている。問題は誰が裁き、誰をそう認定するか、ということであり、人として他人を裁く資格をもつ絶対者などいない、という点である。この二点は分けて考えられるべきであるが、死刑の論議ではこの点がいつも混同されているし、又市の理屈も同様である。裁く「人」など居ようがないから、やむを得ず「法」という別のシステムが作られているのだ。私刑と死刑との違いはここにある。確かに又市らの行為は私刑に属するから、又市の直感はある意味で正しいのであるが、「誰も死んではならない」という無際限の生命尊重は時代にも現実にもそぐわない。
こののち8年の潜伏を経て、又市は一党の頭目として小説の表舞台に再登場する。最初に書かれた「巷説百物語」に続く、ということになる。制作順に読むのがよいか、時代順に読むのがよいか。文章の仕上がりから考えると、たぶん前者であろう。