美術ミステリの第2弾
★★★★☆
美大の准教授の佐々木と天才美術コンサルの神永の二人が美術品に関わる謎を解く短編集の第2弾。
本書には5つの作品が収められているが、何れも美術にまつわる薀蓄が一杯でその方面が好きな人は楽しめるであろう。残念ながら全く疎い自分は詳細を殆ど読み飛ばしてしまったが、それでも名前しか知らなかった岡倉天心が日本の美術界で演じた役割などがわかり、いささか知識が増えたようだ。
一つ一つの短篇を見ると「マリーさんの時計」のように柱時計の由来を説き明かすのに時間をかけた割に、それを送った辻氏の気持ちがよく理解できないといった、作者の独りよがり的な部分を感じる場面もあったが、ユニークな設定と個性的な登場人物を今回も楽しむことができた。
芸術を味わう
★★★★☆
芸術を味わう
あらすじ
東京から離れて京都の大学で助教授の職を得た佐々木の耳に、
旧友の天才美術コンサルタント・神永の悪評が入ってきた。
神永には舌で芸術の真贋を感じ取ることができるのだが・・・
そんな二人はある絵の売買を通じ再会を果たすことになる。
それは岡倉天心筆と称される絵の売買だった。
神永は高額で買い取るというが、
天心は絵筆を取ったことがないはずでは?
「天才たちの値段」に続く美術ミステリーの第二作。
感想
実は神永シリーズには一つの基準があって、
それは、神永が甘みを感じたら『真』であるというルールです。
でも考えてみると少しずるいルールで
「甘い」と言えば『真』になるのなら、
作者が物語に決着をつける上で
こんな都合のいいルールはありません。
そこをどう切り抜け、あるいは、かわして読者を納得させるかが、
作者の腕の見せどころであり、このシリーズの醍醐味。
名探偵とワトソンの関係にも重なる距離を語る「天才までの距離」や
分かりづらさが一級品のメッセージを読み解く「マリーさんの時計」
あたりが個人的にお気に入りの小品です。
できれば前作を読んでからの方が今作を楽しめますが
今作から読んで、何故彼らが別れたのかを想像しながら
前作を読むのも楽しい読み方だと思います。
読んでからの一言
その回りくどさに激しく共感!
美術好きな人のためのミステリー
★★★★★
ミステリー小説でありながら、極上の美術史の深みにはまる心地よさ。一読することをお勧めします。
本当に芸術を愛する人が書いたであろうことがひしひしと感じます。岡倉天心が最初にでてくるところ
が心憎い。日本美術の歴史において岡倉天心が果たした役割の大きさが理解できる人であれば、横山
大観との繋がりと、コレクターの岡倉天心著作物への執着がよく理解できるはずです。また岡倉天心
が金工、漆、工芸など多方面の美術を広く愛していたことを考えると、著者自身の美術への考え方が
主題となった岡倉天心に投影されているような気がします。
強烈な甘味を感じる本
★★★★★
「天才たちの値段」の続編である。上記の凡庸なタイトルをつけてしまったが、感想を書くのがちょっと難しい。敢えてひとことでいうと「とても居心地のよい」作品である。謎解きよりも、美術を中心とする主人公たちのこの世界に浸っていられることがとても心地よいのだ。もったいなくて1日に1篇と決めて読んだが、5編しかないので、当然5日しか持たない。もう1度読み返したが、今度は5日も持たない。仕方なく、「天才たちの値段」も読み返した。当作品では、人物間の関係が、あまり詳しく述べられていないので、「天才たちの値段」から読むことをお勧めする。さすれば、さらに楽しめること請け合いである。ストーリーとしては5番目の「レンブラント」の話が秀逸かな。とても美しく組み立てられた、強烈に甘味を感じる作品です。