マラーニはまた、鑑識家としてのアプローチに現在のテクノロジーを結びつけ、X線で下絵の修正部分をも浮き彫りにする。レオナルドの作品の研究に生涯を捧げてきたマラーニは、この芸術家が女性の目の周りの皮膚の柔らかさを出すために指先で絵の具を軽くぼかした箇所まで指摘するのだ。章の1つは、レオナルドが、ロマン派の批評家たちが言うような「近代の申し子的な天才」ではなく、実は古代の芸術作品に多大な影響を受けていた、という持論の展開に当てられている。解説には随所に脚注があり、また付録として、現存する作品と消失してしまった作品のチェックリストや、レオナルドの生涯を扱った主な資料をすべて網羅した目録も掲載されている。
その謎めいた表紙(ジネヴラ・デ・ベンチの肖像の唇部分)から膨大な参考文献リストまで。『Leonardo Da Vinci: The Complete Paintings』は、これまでの美術書の中でも、究極に近い1冊と言えよう。