やせっぽちのさえないオオカミ。偶然通りかかった劇場に飾ってあるブタのダンサーたちの写真を見て「なんともうまそうだわい」。なんとか中に入りこみ、最初こそ獲物をねらっていたものの、バレエを見るうちにすっかりそのとりこに。あり金をはたいて、もう一度見ることにしたオオカミだが、舞台の山場、「かいぶつ」の登場シーンでは興奮を押さえられず、ついに…。
自分にとって獲物でしかなかったブタが踊る姿を見て、初めて芸術というものに感動を覚えたオオカミの興奮が伝わってくる。また、公演中の舞台上に勝手に上がる、という誰もが(おそらく作者も)妄想してしまう行為を鮮やかにやってのけるオオカミの姿が痛快。センダックらしい色使いの迫力ある絵はもちろんのこと、店の看板やダンサーの名前など絵のあちこちに隠されている手書きのダジャレ(「豚印良品」「トンソク・シスターズ」…)も楽しい。(門倉紫麻)
さくまゆみこさんの、繊細で美しい日本語訳にもうっとり。
姪へのクリスマスプレゼント、今年はこの本に決めました♪
センダックは、さぞかしこれを書いている間楽しかったことでしょう。細部にこだわりにこわだっています。その後をなぞる楽しさは読者のもの。黒沢明のお葬式のニュースやニジンスキーの名前、その他見つけてうれしくなる宝捜しの楽しみも。でも、腹ぺこのままオオカミさん(思わず“さん”付けに…)はどうするのでしょう?
お子様に独占させるのは大いなる損失です。