本書の舞台となっている1959年といえば、海外からの安い輸入石炭の流入で、アメリカの炭鉱産業が衰退の一歩をたどっていたときである。しだいに暗くなる町の雰囲気、将来へのビジョンが描けずいらだつ町の人たちの様子は、まさに現代の日本社会そのものだ。
しかし、著者サニーの目を通して描かれるのは、決してあきらめることをしない人々の愛すべき姿である。会社からリストラの厳しい圧力を受けながら、生産性を上げることで何とかそれを回避しようとする父。管理職の妻であることの孤独感を持ちつつ、町のパレードやクリスマスの野外劇を成功させようと奔走する母。貧民街から流れ着き、乱暴者と同棲していると白い目で見られてしまう父母と同郷のドリーマ。
ロケットの打ち上げを成功させて大学に行く奨学金を得ようとする仲間のクエンティン。そして、古きよき時代の面影を残すコールウッドの町そのものに、読む者はなんともいえない郷愁の念を感じるだろう。ときには因習に囚われて反目しあうこともあるけれど、町の人たちは隣人を思いやる温かい心を失ってはいない。そんななかで著者は、人生の機微と奥深さを知り、大人への第一歩を踏み出していったのだ。
「あきらめないことが大切だ」。全編をこのメッセージが貫いている。これからサニーのように大人の世界に踏み出そうとしている人はもちろん、すべての人にぜひ読んでほしい秀作である。(篠田なぎさ)