20歳のアンナ・ナリックのようなアーティストはめずらしい。ポップミュージックの車輪のスポークをつかんで、あんまり速く回るのをやめさせたい気にさせられる。「待って」と、このデビュー・ディスクの11曲の歌は口をそろえて新しい入門者に言う。「ここに大事なものがある」と。その内容は、実際は感じる以上の勢いで押し寄せてきて、すぐにそれにつかまってしまう。これらの歌はひとつひとつが独特で、見た目の華やかな内省と重いため息、回想のかたまりに一緒くたに丸まってしまうのをうまく避けているが、ファーストシングルでこのアルバムの第1曲となっている「Breathe (2 A.M.)」（邦題「ブリーズ(2AM)」）は最も重要な歌としてちょっとした奇跡をもたらした。シンプルでさびしげなピアノが渦を巻いてギターに変わり、それがロック一歩手前で止まっている。そこにはナリックの気取らない声が流出する余裕がたっぷり残されている。そしてそうなると、音楽は森のように豊かに夢心地になる。インディー・シンガーソングライターのトーリ・エイモスの雰囲気にジュエルとアラニス・モリセットのような感じがぐっと高まってくるが、自然さと彼女の歌への衝動がコーラスとヴァースのすべてを陰りのないものにしている。今や彼女はポップミュージックの領域に慎重に降り立った。賢明なリスナーは玄関マットのほこりを払って待つのがよいだろう。（Tammy La Gorce, Amazon.com）