LSD中毒で異常をきたし、1968年にピンク・フロイドを脱退したシド・バレットは、その2年後に、フロイドのメンバーで親友であったデヴィッド・ギルモア、リチャード・ライトと共に脱退後初のソロ・アルバムを発表した。『The Madcap Laughs』（邦題『帽子が笑う…不気味に』）は、見事な出来だが、エレキ・ギターの音ひとつひとつがバレットの神経をすり減らし続けているような不安定さを感じるアルバムだ。「Love You」（邦題「ラブ・ユー」）などの曲では、のちにブラーが好んだ陽気なポップス風の音に、彼の精神状態がうまく隠されている。しかし、「Dark Globe」（邦題「暗黒の世界」）ではそれが表面に現れ、「どうか手を貸して……僕がいなくて淋しくないの？　全然淋しくないの？」と、バレットが気味悪く訴える。特に優れているのは、フロイド初期の控えめな狂気そのままの「Octopus」（邦題「タコに捧ぐ詩」）と、ジェイムス・ジョイス作の詩の一篇から歌い、静かな音楽的狂喜を感じさせる「Golden Hair」（邦題「金色の髪」）のふたつだ。（David Stubbs, Amazon.com）