ランバート一家のメンバー5人は全員、人生に行き詰まりを感じていた。家長のアルフレッドは痴呆症。大手製薬会社が以前の彼の発明をもとに革命的治療法を開発したものの、彼の病気は治らない。妻のエニッドは「断固拒否」が得意技のがんこ主婦。当然子どもたちも独自路線を歩んでいる。まず遊び人の次男チップ。学生をたぶらかしておいしい大学教授の職を棒にふり、新しく始めた脚本家としてのキャリアにも暗雲が漂っている。次にチップの妹デニース。ロマンチックに言えば、いつも苦境に立たされている悩める都会派シェフといったところか。最後に長男ゲーリー。こちらは息詰まる結婚生活で気が変になりそうな銀行員だ。フランゼンは彼らの困難で悲しい人生をたたみかけるように描写するが、途中シニカルなユーモアで読者を笑わせることも忘れない。
最近ゲーリーは地球の構造プレートと同じくらい気がかりなことがあった。ミッドウェスト地域から涼しい沿岸地域に移住する人の数がどうも多すぎる…。いっそ人口移動を禁止すればいいのに。そうすればミッドウェスト生まれの人たちも大手を振って故郷に戻るだろう。お得意の練り粉たっぷりの食べ物だって思う存分食べられるし、堂々と流行遅れの服を着てボードゲームに興じることもできる。なにしろ「無知」の貯えを維持しようという国家戦略のためなのだから。おいしさに「無知」な人々、彼らがいなくなったらぼくみたいな洗練された特権階級の人間がいい気分になれないじゃないか。