その実績から伝説のトレーダーと呼ばれる藤巻は、短期的な円安によるいわゆる「資産効果」による景気浮揚を強調する。構造改革により本当の意味での競争力ある資本主義を築くには、助走のプロセスが必要だというわけだ。一方、エコノミストとして活躍する宿輪は、保護主義的な思考になれた日本人のメンタリティーを変革し、高度成長時代のような産業経済構造から脱皮することが必要だと説く。いわば原理原則論からの円高政策の主張である。
本書は、まず両者が持論を展開し、最後に直接の討論が収録されるという構成をとっている。議論が深まるうちに2人が意気投合するのは、日本の論壇では、そもそも「円安・円高」の定義そのものがはっきりしていないという点だ。それぞれのメリット、デメリットから、背景にイメージされる社会像までが前提として共有されないまま展開される議論は不毛だ。本書は、まさにその本格的論議の出発点として十分な役割を果たす内容を含んでいる。(松田尚之)