LTJブケムの『Earth 6』は、正真正銘のブケムの新作とはいえない。このシリーズは、彼のレーベル、グッド・ルッキング・レコードが今後にリリースする作品群のサンプルだからだ。しかし、エゴや名声に目もくれず総合的なサウンドを追求してきた経歴を考えれば、ブケムはグッド・ルッキング・レコードと同義語の存在であるといって差し支えない。ブケムは、ジョン・ディグウィードやポール・オークンフィールドのように天下に名をとどろかせることはなかったかもしれないが、ずっと昔、ブレイクビーツ、ジャングルを生むことになった土壌を開拓・発展させた功績によりダンス・ミュージックの殿堂入りを果たしている。『Earth 6』には、そういうサウンドのサンプルがきら星のごとく散りばめられている。たとえば、派手にスタートするMarcelの「Solitudo 3」と「Jealous」、催眠術師のようなMCが聴けるESP & Substanceの「Run The Gauntlet」などだ。他のグッド・ルッキング・レコードの作品で見受けられる超スピードのジャングル・ビートとは対照的に、ここでは穏やかなリズムが支配的だが、ふんわりとした雰囲気やダウンテンポを好むリスナーは、ブケムのメロディ豊かな処方せんがもたらす、麻酔にかけられたような感覚に満足することだろう。（Matthew Cooke, Amazon.com）