グラフトンは前作『N Is for Noose』(邦題『縛り首のN』)、『O Is for Outlaw』(邦題『アウトローのO』)で新境地を開拓、キンジーには新しい家族ができ、白髪が少し増えた。しかし、最新作『P Is for Peril』の舞台は80年代半ばに設定されている。彼女は36歳。前作で爆破された、リフォームした車庫に住んでいる。グラフトンはフェイスリフト(美容整形のひとつで、顔の皮膚を持ち上げることにより若返ったように見せる)よりも簡単にキンジーを若返らせたが、熱狂的なキンジーファンは、この複雑なキャラクターが、90年代、哀愁をただよわせつつ、おもしろく年を取っていったことを懐かしく感じるかもしれない。
本書はグラフトンの最高作ではない。読者がパーセルや彼の妻、同僚に感情を動かされることは難しいだろう。しかし、後半にさしかかると、物語は俄然おもしろくなっていく。ハンサムな大家がキンジーに新しい事務所を提供。だが喜んだのもつかの間、このことは当初考えていた以上の危険を引き起こす。このあたりから物語は「危険のP」ならではの展開を見せる。普段に比べると、やや話のテンポは遅いし、より成長したキンジーを懐かしく思えたりもする。しかし、グラフトンのファンたちは、今回も彼女の新作『P Is for Peril』をベストセラーのトップに押し上げるに違いない。