未知との遭遇
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表紙の「毒か薬か環境ホルモン」という文字に、あれ、環境ホルモンが薬だなんておかしい、だって「奪われし未来」には生殖毒と・・、でも著者は子宮内膜症と環境ホルモン(ダイオキシン)の研究では第一人者の東大の堤治教授。
読み始めるとこれが、第一章の「ダイオキシンによる大統領暗殺画?」から面白くて(内容は深刻だが)つい買ってしまった。
難しいことは解らないが、日本を含めて第一線の研究者達が大勢関わっていて、毒あるいは毒とは違うかもしれないなにかという発想で研究をすすめ、環境ホルモンに関する新たなエビデンスを得ている。そのうえ生殖毒とされていた環境ホルモンも使い様によっては薬にもなるかもしれないという考えまである。近頃は内分泌攪乱物質はただ人心を攪乱しただけだったとか、虚構だったとか書かれた本もあったが、どうもそうではないらしい。
やはりヒトの生殖機能には影響を与えていて安心は出来ない。だが研究がすすめば薬として利用出来るかもしれないというのだから驚きだ。今迄は環境ホルモンは白か黒かばかりが論じられて来たがそんなに簡単に結論は出ない、更に広い分野の専門家達によって研究する必要があるというのだ。
たとえば天平時代の養老律令に毒薬と書かれていて、近頃も殺人で使われて有名になったトリカブトも漢方では附子として強心、利尿、鎮痛に使われ毒にも薬にもなる。するとまだ人類は100年前は存在しなかった未知の物質、環境ホルモンを有効利用する術を知らないだけなのかもしれない。
読破する為にはある程度の専門知識が必要だが、理系おたくを自認する人はこの本の内容がはたして何処まで理解出来るのか挑戦してみるのも面白いだろう。
山を仰いで
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数年前にメディアがこぞって取り上げた「環境ホルモン」による汚染については、いつも意識の片隅で重く不安な事柄としてあり、真実を知りたくてもその術が与えられませんでしたが、「環境生殖学入門」に出逢い、一筋の明るい光が見えたような気がしています。
入門書とは言え、最終章に至るまで「環境ホルモン」の世界が鮮やかにその姿を現しつづけるのには圧倒されます。まるで、「不思議の国」のアリスになった気分です。
「ライフサイクルと環境ホルモン」「キレる子供」「毒か薬か環境ホルモン」など、思いっきり考えさせられる問題ばかりです。今更ながら、地球が人間の作った化学物質の実験場になってしまったという現実に驚きを新たにせざるを得ません。
医師そして科学者として著者は【因果律】を遵守しつつ、「命」をはぐくんできたこの地球をどうリスクマネージしようかと、ダイナミックに語りかけてきます。
大勢の「環境ホルモン」研究者が国境を越えてコミュニケーション・ネットワークをつくり、チームを組んでLuciferのような「環境ホルモン」を「一筋の希望の光」に変えようと協力していることを初めて知りました。
読者を無闇に不安にさせない、「命」を慈しむ心に満ちた、力強いメッセージ一杯の一冊です。
毒を薬に
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7,8年前にダイオキシンでマスコミを騒がせた環境ホルモン(外因性内分泌撹乱化学物質)に関する産婦人科医としての研究の成果と問題提供の書である。最近ではウクライナ大統領候補ユーシェンコ氏の毒殺疑惑に使われたらしい物質がダイオキシンという環境ホルモンであり、再びダイオキシンが注目された。本書では環境ホルモンを以前のようにセンセーショナルに取り扱わず、何が分かって、何が分かっていないのかが書かれている。一般の読者を想定した対談形式で書かれており、むずかしい問題を平易に語っている。
人類に問題が起こってから大騒ぎするのでは、取り返しがつかないとの考えで、一歩一歩われわれの子孫にも役立つ研究を続けてきた研究者たちの最新成果が見渡せる良本である。